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会報誌  2022年6月号 雪山特集

4月29日~5月4日 雪山トレーニング

残雪の槍ヶ岳への挑戦 感想(総括)

 CL N.K


槍ヶ岳アタック中の会長
槍ヶ岳アタック中の会長

 5月の北アルプス登山は非常に難しい判断を迫られる季節と言えます。晴れればポカポカ陽気でジャケットを脱ぎ汗ばむ状態、一方天気が崩れれば暴風雪となりこれまで多くの遭難者を出している。リーダーとして進むか停滞するか戻るか苦しい判断に迫られる季節でもあります。  今回のメンバーは過去雪山三ケ年計画のメンバーで厳冬期の大山や広島の山々、或いは雪の八ケ岳や白馬、立山を経験した会でも優秀なメンバーが集まった。リーダー自身もこれまで数多くの雪山は色々経験していたが、5月の槍ヶ岳は初めての挑戦、もちろんメンバー全員がそうであった。  

 今回の登山で一番気にしていたのが山で目まぐるしく変わる天気。ある予報ではAとかBとかCの予報値で全く当てにならない。この予報値ではメンバーを槍ヶ岳に連れていく自身は全くなかった。でも、山岳気象予報士として日本の名だたる登山家やエベレスト登山隊をサポートしている「ヤマテン」という有料の気象サイトがある。私もこれを利用してこれまで、何度も遠征登山で天候が心配な時進むか待機するか撤退するかの判断材料として利用させてもらっている。予報は予報であり天気がコロコロ変わることも十分考慮して判断しなければならないが、これにプラスして経験値を重ねあわせ行動に移している。山を知っていても体力がありそうでもメンバーを掌握する力、先を見通す力がなければメンバーの命を守ることは到底できないしメンバーも不安で仕方ないと思う。

 今回の登山の天気予報では、登山開始日は3,000m付近で気温-5℃、風速11m/s、風雪と出ていた。(実際は-2℃、風速15m/s程度だった)もちろん 上高地付近は雨。風方向は飛騨側よりの風(南西側)であり、槍沢方面からのコースは反対側でさほど風の影響は受けにくい。ということは低体温症にもなりにくいと予想し、その予報を唯一の判断材料としてメンバーの体力も考慮して決行を決意した。

 

槍ヶ岳山頂

 朝4時ヘッドランプを点けて宿を出発し1時間で横尾山荘に到着。そこで長野県警山岳救助隊の隊員と出会い現地の情報収集、生憎槍方面の状況は良くわからないとの事であったが夏道と違って沢沿いを歩くので雪崩と沢への転落を注意するよ うに言われた。ポツポツと降りしきる登山道を歩き続け、出発して4時間半ババ平キャンプ場を過ぎるころには雨から雪に変わっていた。大曲あたりで丁度半分になるが、周りが風雪になり傾斜もきつくなってきた。この頃を過ぎると共同装備を持っている男性軍と女性軍との差が開き体力差が段々と出てきてパーティーの列が長くなってきた。

 ゆっくりでも体を動かしながら登っていると低体温症にはならないが、一旦立ち止まって休憩でもすると寒さが増してくる。よって遅い人のペースに合わせるより自分のペースで登った方が低体温症のリスクが少ない。これがメンバーの力量である。恐らくこのメンバーの一人でも体力が無かったら途中でリタイヤし最悪救助を呼ばないといけない状態になっていたかも知れない。結局リーダーはパーティーの真ん中に位置して後続メンバーの動きを観察しながら、時によってカーブで見えなくなり暫く姿が見えないときは少し戻ってメンバーの状態を確認して登り返した事もあった。

 

 出発して12時間40分最終到着者が小屋に入ってきて終了。最初に到着したメンバーから遅れる事約50分、それぞれの距離を保って無事小屋入りを果たした。

 

 今回の教訓として低体温症を発症するリスクを考慮すると、遅いメンバーに付き添うよりマイペースで身体を動かし続けるのがリスクが少ないことが分かった。でも後ろのメンバーを絶対に見失わないことが大前提である。その点リーダーは前後が良くわかる中心が最も良い位置だと分かった。

 

 翌日は天気予報通り快晴、それぞれご来光を撮影したり、周囲の景色を撮影したり昨日の苦労を忘れたかのように撮影に夢中になっていた。朝食を済ませアイゼン、ピッケル、ロープなどの装備を整えて山頂へのアタック開始。山肌にはベットリと雪が張り付いており、途中鎖が出てきて鎖を握り、ピッケルを突き刺し、岩をつかみながら最後の梯子に到達。そこを登り終えると夢にまで見た槍の穂先のテッペン。やったね~!よく頑張た~!等と声を掛け合いながら山頂到着を喜び合った。お互い記念撮影を始めたころガスが湧いてきて気持ちを残しながら下山開始。

 

 

 今回の残雪の槍ヶ岳挑戦は、雨、雪、風雪、快晴と気候的に厳しい登山となり、装備の面でいくつか問題が発生した。でもこの厳しい環境下で登頂を果たせたことは、日頃からの訓練と努力の賜物と思っています。今回の教訓を次回に生かし、更なるスキルアップを図って貰えればリーダーとしての役目も果たせたのではないかと思います。今後の皆さんの頑張りに期待したいものです。 



風雪の厳しい環境下での槍ヶ岳       

企画チーム  H.K

槍ヶ岳で

 

 槍ヶ岳は今回で5回目。これまですべてが夏山で北鎌尾根、西鎌尾根、キレット、東鎌尾根とすべてのルートを歩いていますが、雪をまとった槍ヶ岳は今回が初めてでした。年齢も75歳、歩く時間約11時間、おまけに冬装備となれば心配は誰よりも膨らんでいました。リーダーから目まぐるしく変わる山の天気予報に一喜一憂。良い天気を願うばかりでした。毎度のことですが、上高地に到着するとそこから眺める梓川、河童橋、そして穂高連峰の山々など、まるで恋人にでも出会ったような浮き浮きとした気分になります。登山初日と最終日は食事の美味しさと氷壁の宿で有名な徳沢園をあえて選んでもらい楽しい登山となる筈でした・・・が、

 初日は移動の疲れもなく観光客と一緒に道端に咲いているニリンソウやエンレイソウなど高山植物を楽しみながら歩き続けました。徳沢園に到着後毎回ではありますが美味しい夕食を頂き明日への鋭気を養いました。登山当日は生憎の雨と雪。出発して間もなくぽつぽつと雨が降り始め気分的に少しずつ重たくなってきたような感じです。標高を上げるに従い雨から雪に変わる。段々と風雪も強くなり体力の限界も近づいてきたような感じです。でもここで断念する訳にはいかないと気力を振り絞り11間半(個人タイム)の長丁場を乗り切り槍の肩に到着しました。到着すると同時に緊張感も途切れたのか急激に寒さが襲い唇も紫色に変わり身体の震えも始まってストーブの傍から離れられなくなっていました。極度の疲労で夕食も満足に摂れず早々と寝床にはいりましたが、疲れは取れているようで胃の調子が思わしくありませんでした。翌日は快晴の槍ヶ岳を見て気分も良くなり山頂を目指してアタック開始。初めて雪を被った槍ヶ岳登頂を果たし記念撮影をしたときは苦労を重ねて到着した喜びに暫く浸っていました。

 登り11時間半で下りの予想は7時間半?これも長丁場。下りと言えどアイゼンを履いたままで足を踏ん張らないといけない結構体力勝負。下山開始後、しばらくしてヘルメットとゴーグルを忘れているのに気づき取りに戻ろうとしましたが、戻る体力を使うより諦めた方が良いと判断して下り始めたところ、先にいたリーダーがザックを降ろして取りに戻ってくれました。頼もしいリーダーと感じました。先日低山の藪の道で眼鏡を落とした時も諦めていた私は、リーダーが戻って探しあてたツワモノ?これだけ執念があるリーダーだと安心して一緒に山に行ける人と再確認したところです。

雪の中を歩きに歩いて徳沢園に16時過ぎ到着。言わずと知れた夕食を食べる元気もなく風呂を済ませるとそのまま朝までぐっすり。2晩続けて夕食を抜くことになり随分やせたか?と淡い期待。しかし、体調が戻ると同じような食事の量で自宅に帰って鏡を見ても顔の日焼け以外に何も変わっていませんでした。(笑)でも体重計は正直で?kgほど低い数値(喜び)

 今回は雪山装備の重たさ、雨、雪、風雪の厳しい環境下での槍ヶ岳への挑戦でしたが、一緒に行動したメンバーからの勇気ある言葉や優しい対応などメンバーシップの有難さを身に染みて感じた登山でした。

 リーダーはもう次の山を計画しているようですが、年齢の進みに逆らいながらこのメンバーで引き続き登山を続けていきたいと感じた槍ヶ岳登山でした。


厳しくとも素晴らしい山行だった       

企画チーム  T.Y

槍ヶ岳山頂
山頂を極めた

 自身初めての積雪期の槍ヶ岳に挑戦し山頂に立てた喜びは最高でした。上高地から登山ベースとなる徳澤園までの道すがら左手には凛とそびえ立つ穂高連峰の山々など高揚感ある中で道脇のニリンソウの群落や猿の親子、水面のイワナや梓川の清流に癒された。

 宿を朝4時にヘッドランプを点けて出発、暫くして小雨となりババ平キャンプ場を過ぎる頃には雪に変わっていた。風も少し吹いてきた。これから先は厳しいだろうな~、大丈夫だろうか?気持ちを引き締めながら隊列を組んで進んで行く。残り1/3槍が見え隠れする頃から、身体が非常に重たい、呼吸も苦しい、息も上がる、腰も痛くなってきた。自分に言い聞かせる大丈夫!キット小屋迄行ける!口もカラカラに、体内の水分が枯渇し口に含んだパウダースノーと槍の肩まで風雪の中を歩き通し槍の肩の小屋に到着後のリーダーから貰った温かいコーンスープの味は忘れません。

 翌日は快晴となり素晴らしい槍の姿を見る事が出来た。夏の槍とは全く違う様相。岩壁に雪をまとった槍の穂先へ恐怖心を乗り越え必死の思いで辿り着き、山頂で皆さんと一緒に手を握り合って登頂の喜びと感動を共有できた事は仲間同士の結束を再確認しました。

 思い起こせば色々と反省点もあります。ザック内の防水処置を怠り中までグッショリ濡れてザックが重たくなったり、雪山なのに重量を軽くしようとお湯を入れるサーモスを抜いたり、山小屋で濡れた装備を乾燥する時手袋のインナーを外さずそのまま干し、乾かなかったことなど多くの事を失敗し、多くを学んだ山行でした。

 今回の経験を活かし、次への挑戦を続けていきたいと思った厳しくとも素晴らしい山行でした。色々アドバイス、手助けして頂いたチームの皆さん有難うございました。


槍ヶ岳山頂での景色は一生の思い      

企画チーム  M.E

槍ヶ岳山頂
夫婦揃って登頂

良かった所

1 チームワークが良く行動が素早く時間通りに行動ができた。

2 今回の山行は新雪が降り積もり、前を行く仲間のトレースさえ消える程吹雪かれ、尚且つ足が雪に埋まり登りにくい中1人も弱音を吐く事なく槍ヶ岳山荘までの長丁場を乗り切った。

3 今回の気候が雨から雪そして吹雪と山の天気が変わり信頼できる山の天気情報取得の大切を痛感した。

 

反省点

1 ザックへのパッキングの大切さを痛感した。バランスよくパッキングすれば、肩、腰、足への負担をかなり減らす事ができたのではないか!

2 今回、五島組は長丁場をイメージしてそれぞれが、重しを背負い五島の山々を登ったり、長時間歩いて準備したが、実際の重さより、負荷をかけた訓練が必要ではなかったか。(復路はかなり疲れていた!)

3 五島に来て、お酒の量も増えたせいか、身体が重くなりダイエットが必要! かなア~と反省しています。

 

 最後に今回の山行は苦労した分、槍ヶ岳山頂での景色は素晴らしく一生の思い出になりました。今回の経験を今後に生かしていきたいと思います。リーダーそして他の皆さん貴重な体験をさせてもらい有り難うございました。

 


普段では味わえない貴重な体験     

企画チーム  M.E

槍ヶ岳アタック中
槍ヶ岳アタック中

槍ヶ岳にいつか登ってみたいと思ってはいたものの、お誘いを受けた5月はまだ雪山で、夏山に比べると装備も多いし難易度は格段に上がる。頂いた計画書を見て登りが10時間半、翌日の下りは8時間と記載されている。更に地図を見たら等高線がびっしり詰まっていてかなりの急登が続くようだ。体力に自信が無い私は不安な気持ちだけがどんどんと膨れ上ってくる。

不安を払拭するには体力をつけるしか無いと思い直し、半年前から続けていた片足1キロずつのウエイトを巻いての週3回のウォーキング時に、腰にあと2キロプラスして歩く。週末にはザックにウエイトを入れての山行に励んだが、果たしてこの様なトレーニングで足りているのかどうか、不安は消えない。あと出来る事と言えば荷物の軽量化だ。このご時世必携の除菌シートは最低限必要な枚数以外は抜き取り、日焼け止めは小さな容器に移し替えるなど吟味を重ね、徹底した荷物の軽量化に勤めた。雪山で私の体力が尽きると言う事は、参加した他のメンバーの撤退をも意味し、最悪命を危険に晒す事にもなりかねないので、何としてもそのような事態だけは避けたかった。山行中もシャリバテや高山病にならないように出来るだけこまめに栄養と水分補給を心がけ、何とか力尽きる事なく無事登頂する事が出来た。

 1番印象に残ったのは槍の穂先に登る時リーダーが出して下さったロープの有り難さ。一度は弱気になり穂先に登るのを諦めようと思ったりもしたが、この一本のロープのお陰で安心して山頂まで登り切る事が出来た。

 重たい共同装備を担いで登って下さったリーダー、そして一緒に参加して下さった皆様本当にお世話になりました。お陰で普段では味わえないような大変貴重な体験が出来ました。

 


いつかまた新緑の上高地へ     

企画チーム  A.M

 初日4/30初めて見る上高地の山々、クマ出没の張り紙にちむどんどんです。5/1往路槍沢コース、前日の雪崩リスクの話でブルーになりつつ、沢沿いの道をひたすら沢と平行に進み、大曲からは見上げるような雪面を登ります。GWとは思えない風雪の中、小屋の方が立ててくれている旗竿と、ぽちぽちとしか居ない登山者だけが目印です。雪でトレースも消え、吹雪に吹かれながらほうほうの体(てい)で槍ヶ岳山荘に転がりこむと、山荘の方が優しく迎えてくれたのが嬉しかったです。出発から11時間30分がたっていました。日が落ちると台風のような風になっていて、ぞっとします。

5/2朝から快晴、槍ヶ岳は冬の装いです。私は技術的に不安があったので、登頂は諦めて、皆さんを小屋から見守っていました。耳が千切れそうな暴風の中、槍ヶ岳からKさんの声が聞こえてきます!皆さん無事に登頂されて感動しました。そして、長い長い下りが待っています。

5/3疲労により徳澤園で泥のように眠った後、快晴の梓川沿いを上高地まで歩きました。今までの苦労を吹き飛ばすような自然の美しさでした。

リーダーをはじめ、チームの皆さんには大変お世話になりました。予想より厳しい天候で、一人では決して登ることはできなかったと思いますし、反省点としては寒さを心配して厚手のフリースを準備して非常に嵩張った事、冬用手袋で防寒用テムレスを準備していたが岩場での手袋には不向きと判断し登頂を断念する材料の一つとなった事、ロングコースと聞いて訓練はしていたが登りの急な雪面で足がつり始め歩き方を一から考え直す必要を感じたなどたくさんのことを実地で学ぶことができたと思います。また、会の皆さんとも、いつか新緑の上高地に行けたらとても嬉しいです。